chapter.4〈原点〉

僕の母方の祖父は、元・大工。残念ながら僕が二十歳の時に他界してしまいましたが、幼少時代の僕はかなりのおじいちゃん子でした。僕が物心ついた時には既に現役を引退していましたが、家の横にあった小さな作業場でいつも何かを作っていました。大工仕事に限らず、色んなモノを作ったり直したり。

近くのバス停にベンチが無いからと木製の椅子を作ったり、近所の人に頼まれて家電製品や穴のあいた鍋を修理したり、僕らのために庭にブランコを作ってくれたり。当時の家も祖父が自分で建てたものだったそう。

幼い僕は、ほこりっぽい匂いのする作業小屋で祖父の横に座り、昔話を聞きながら眺める作業が大好きでした。その手の動きや道具の一つ一つ、素材がカタチに変わる、元通りに蘇る、その一連の作業は、魔法のように感じました。

ちなみに母も手作りが得意な人で、僕と姉の洋服、お誕生日のケーキ、パンやお菓子、なんでも作って与えてくれました。そんな環境で育ったからか、僕は幼い頃から「つくる」事が好きでした。「つくる」以外にも、モノの「つくり」に興味があって、おもちゃや目覚し時計等を分解しては組み立てる・・・という遊びが好きでした。それは、今も変わりませんが「どうなっているのか?」が気になって仕方なかったんです。

そんな幼少時代を過ごしたおかげで、モノを見れば大体の作りが解るようになり、祖父の作業を見ていたおかげで、道具を見ればその使い方も解るようになった気がします。

そういう訳で、僕の革製品作りは完全なる独学・・・というよりは「自己流」と言った方がしっくりきます。既製品を見て「つくり」を学び、作り方は道具から学ぶというスタイルでここまでやってきました。教科書にあるような「作り方」では無く、トライ&エラーで技術を身につけてきました。お手本にしたブランドや、尊敬している職人・デザイナーは居ますが、どこかできちんと学んだ訳では無いし師匠もいません。デザインの勉強や修行を重ねた作り手の仲間達がいる中で、その事がコンプレックスだった時期もありますが、今は誇りにさえ思っています。

数年前に、母がふと思い出したように言っていました。「じいちゃんも革の鞄を作っていた事がある」と。
偶然にも僕が革製品を作り始めたのは、祖父が亡くなったその年でした。僕のモノ作りの原点は、間違いなく祖父にあります。
祖父がよく口にしていた言葉。”為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり”自分の目標を見失わずに努力すること。その事を教えてくれたのも祖父でした。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

chapter.3〈It is masterpiece of RHYTHMOS〉

[Zip/ジップ]はポーチ型のお財布で、収納力と使いやすさが特徴のリュトモスの代表作です。
 
ぱっと見はシンプルなファスナー付きのポーチなので、見た目ではお財布だと認識されないこともしばしば。手にとって中を見ても、そのサイズ感や独特な構造のため、説明がなければ使い方をイメージ出来ない解りにくい財布でもあります。

自分が使っているものを見せながら説明すると、お札や小銭・カード類はもちろん、通帳やパスポート、スマートフォンや名刺入れ等の厚みのある小物まで収納できること、パーツを極限まで少なくした薄くて軽いシンプルな構造ながら、見た目を裏切る収納力があるということ、その全てが手縫いだということに驚かれ、やっとその魅力を伝えることが出来ます。当たり前ですが実際に使ってもらえれば、上質な素材や丁寧な手仕事、シンプルな構造による使い易さは、瞬時に体感してもらえるはずです。第一印象がどうあれ、それが財布らしい財布であることを、きっと理解してもらえると思います。実際に、ご愛用者の皆さまからは「他の財布を使う気にならない」「友達や家族にも使って欲しい」等、嬉しいお声を頂いています。

そんな[Zip]の原型ができたのは2008年。以前はオーダーメイド製作が中心だったともあり、数多くのお財布を作ってきましたが、何かもう一つ、この形がベストだと思えるものがありませんでした。「お財布というものの型はある程度決まっているけれど、その枠をはみ出た新しいものがきっと出来るはず」そう感じていました。その自分の中の「型」を打ち破ったのが[Zip]だったのですが、思いとは裏腹に当初はまったくといって良いほど反応がありませんでした。それでも自分の中では「これ以上の財布はない」という根拠のない自信があったのと、一部の方に気に入ってもらえたこともあり「この財布をリュトモスの代表作に」と決め地道に作り続けてきました。

結果、2010年9月に出展した業者向け展示会(FOR STOCKISTS EXHIBITION)をきっかけに、老若男女を問わずたくさんの方にご好評を頂くアイテムとなりました。ちなみに、その時(2010年9月)の受注分から入れているシリアルナンバーは、先日「No.1,550」を越えました(2014年12月)。工場生産のモノには及びませんが、生産量の限られた手仕事で送り出す数としては、自分でも想像が追いつかない数で、正直びっくりしています。

Zipは、リュトモスのコンセプトや僕自身の想い、フィロソフィーが全てつまっている、まさに代表作なのです。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

※instagramに「#my_zip」というタグを作っています。皆さんのZipの写真がUPされていますので、是非ご覧なって下さい。
Zipをご愛用頂いている方で、instagramのアカウントをお持ちでしたら、是非「#my_zip」のタグ付きでinstagramにUPして頂けると嬉しいです。

HANG ALL

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Araheam
http://araheam.com/

多肉・観葉植物を得意とするAraheamと、壁や窓に吊るす仕様の鉢カバー「HANGALL(ハングオール)」を製作しました。3~4号の鉢がはまるサイズです。

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