chapter.1〈革は命〉

chapter.1「革は命」
私たちの暮らしは、日頃から様々な種類の素材に囲まれています。当たり前のように存在するその一つ一つが、どこからやって来て、どんな風に作られているのか。皆さんはそんな風に考えた事はあるでしょうか?

例えば、コットンの布は綿から作られています。綿は植物であり、そこには綿花を育む自然と、手間ひまかけて育てている農家の存在がある。そういうことを知識として知ってはいても、普段の生活の中ではあまり意識しないものです。

革は元をたどれば命ある動物たち。リュトモスで使用するのは牛革がほとんどで、原則的に革のために処分されることはなく、食肉産業の副産物として生まれます。牛から剥いだ原皮は塩漬けにされ、加工業者であるタンナー*1さんの手に渡ります。

鞣し(なめし)という言葉を聞いた事があると思いますが、そのままでは腐ってしまう動物の皮膚を、腐らない丈夫で安定した素材へと変換すること、つまり「皮」から「革」へ加工するのが鞣しです。この鞣しには大きくわけて2つの方法があり、簡単にいうと伝統的な方法と近代的な方法。リュトモスが使うのは前者の伝統的製法*2によるものです。昔ながらの手法で、100%天然成分を使用して作られる、手間も時間もかかる非効率な素材ですが「使えば使うほど味が出る*3」という魅力は、実はこの製法による特徴です。

自然な風合いを生かして仕上げられるため、天然の傷や、トラ*4・イナズマ*5とよばれる生きていたときの痕跡があったり、個体差が出やすい素材です。同じ1枚の革でも、裁断するのが背中なのかお尻なのか、部位によって表情が違い一定ではありません。プラスチックのような工業製品ではなく、一人として同じ人間が存在しないのと同じように、牛や馬も一頭ずつ違って当たり前。転んでケガをすることもあります。育つ環境によっては皮膚にシミもできますし、虫にも刺されます。傷やシワ、シミなどがあるのは当然で、染料の入り方も違うので色ムラも出ます。

そういう理由から、均一な仕上がりを求める量産メーカーやハイブランドでは扱いにくく、使用する場合でも傷などを避け、きれいな部分だけを使うため原価率が上がります。ブランド品が高級な理由は、実はこんなところにもあるのです。

リュトモスのコンセプトは「命」。動物たちから頂いた大切な命に感謝を込め、丁寧な手仕事で素材を余すところ無く使う。強度などに問題が無い以上、傷やシミのある部位も使用するため財布の真ん中に大きな傷がある場合もあります。パーツによって色味に差が出る場合もあります。それは私たちのモノ作りにとっては、ごく自然な当たり前のことです。

リュトモスのアイテムを手にした時、その傷やシワから、生きて走りまわっていた頃に思いを馳せてみて下さい。そうする事で今まで以上に愛おしく、世界にたった一つのモノであるという事が伝わるはずです。

私たちの作るアイテムを通じて、命の大切さや、素材の先にある人や自然の存在を意識してもらう事ができたら、とても嬉しく思います。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

*1 革を鞣すことをタンニングと言い、それを行なう業者のことをタンナーと呼びます。
*2植物タンニンなめし・フルベジタブルタンニング・渋なめしなどの呼び名がありますが、ミモザやアカシアの樹皮から抽出されるタンニン(渋)を使い、30~40日間かけて丁寧に鞣します。この製法による革のことを一般的にヌメ革と呼びます。
これに対する近代的製法とはクロム鞣しと呼ばれる化学薬品を使用する方法で、鮮やかな発色やミシン縫製に向く柔らかさと、生産効率の良さが特徴です。
*3 ヌメ革は、使用していくと皮脂が擦り込まれ、衣類などの摩擦や日に当たったりすることで、あめ色の艶が出て来ます。この経年変化をエイジングと呼びます。
*4生きていた時のシワなどが残っているもの。縞模様になるところからトラと呼ばれます。
*5 血管・血筋の痕。革の表面にイナズマ状に走っていることからそう呼ばれます。