【 Tail of wallet .】


お財布・Zipのファスナーには、金具のついた革のパーツが縫い付けてあります。
僕がこのパーツの事を”しっぽ”と呼ぶので、リュトモス内では当たり前のように通じるのですが、「財布のしっぽ」といっても、普通はピンと来ませんよね。

さて、そんな”しっぽ”には、実はきちんとした役割があります。
ファスナーの端を、同じように革で挟んで仕上げる方法は割とよくある手法なのですが、Zipの場合、ただの留め具という訳ではないのです。ハトメ(ドーナツ状の金具)が打ってあるので、ウォレットチェーンやキーリングなど、何かを取り付けるためと勘違いされる事が多いのですが、そういった使い方は想定していません。むしろ、ファスナーのテープ部分に負荷がかかり、破損や傷みの原因になるのでお勧めできません。

じゃあ、何のためかと言うと、お財布を使う動作に関係があります。

Zipのファスナーは本体よりも長く飛び出しているので、それにより大きく開きます。開ける時はしっぽをつかむ必要はありませんが、閉める時にはファスナーがたわまないよう、しっぽを一方の手でつかむことでスムーズに閉じることができます。
その時につかんだ指から財布が抜け落ちないよう、滑り止めのグリップとしてハトメがついています
ドーナツ状なので、指の腹にしっかりとホールドされ、しっぽをつかんで財布を持ち上げても滑り落ちないよう機能してくれます。

基本的に、リュトモスの全てのアイテムに共通して言えるのですが、ただの装飾的なデザインに見えても、実はきちんと理由があります。アイテムをデザインする時、いわゆる「機能美」と言うものが備わるよう、無駄な装飾を可能な限り省いて、使いやすさとシンプルさを心がけています。

Keep making.

自分の職業を作家と呼ぶのか、職人なのかデザイナーなのか、同じようにモノを作る仲間と話す中でいろんなスタンスがあって、僕も含めてそれぞれのこだわりもあると思うのだけど、結局のところ「モノを作って生きている人」である事に違いはないと思う。

僕らが生み出すモノは、革製品、陶磁器、木工品、衣類、アクセサリーなど、ほとんどの場合「暮らしを豊かにする道具」であって生活必需品ではない、いわゆる不要不急なモノばかり。
それを作って生きている僕らは、こんな状況になり正直戸惑っているのも事実。生き方を根本から考え直さなければいけないのかも、と。

それでも僕は思うんです。自分のような人間にとって「作ること」=「生きること」であって、基本的にはどんな事があっても、どんな時でも「作り続ける」事を大切にしたいし、作る事を止めてしまったら自分という存在が揺らぎかねない、そう思ってます。単にそれしか知らない、それしか出来ないという側面もあるけれど。

だから今の非常事態の最中においても、作りたくても作れない(材料が手に入らない等)状況にならない限りは、手を止めることは無い。それはきっと、鹿児島のクラフト仲間はもちろん、手を動かしてモノを生み出している人たちは、ジャンルを問わずみんな同じ思いなんじゃ無いかと思っています。少なくとも僕はそう。

ただ、これを機に自分の活動を深く見つめ直すのは必要な事だと感じています。作りかた、材料、作る量、売り方、環境への負担とか。
僕の場合、調度そんな事を考えていたタイミングだったので、事態が収束して日常が戻ってきた時に、また僕らの作るモノが必要として貰えるよう、今までとは違う進化したモノ作りが出来るよう考えながら、作り続けたいと思います。

そんな訳で工房は変わらず稼働していますが、お店の方はしばらくお休みしようと思っています。
RHYTHMOSは小さいお店ですし、接客を大事にしています。お客様と距離をとってまで営業することよりも、安全面やモラルを優先しての判断です。

お店はお休みですが、ご自宅での過ごし方の一つとして、革製品のメンテナンス方法などを発信できたらと思っています。RHYTHMOSとして、一人の革職人として何ができるのか正解はわからないし、そんな情報でウィルスに勝てない事は百も承知ですが、ネガティブな情報だけでは心が病んでしまいます。

今は大人しく、健康を第一にお家で大切な家族と過ごしてください。

臨時休業
4月25日(土)~5月6日(水)

※ご注文品の受け取りやリペアのご相談など、必要な場合には対応いたします。
※ご来店の際は事前にご連絡の上、マスク着用でお越しください。

【RHYTHMOS 10 TO THE NEXT DOOR.】

2020年は、前身であるRHYTHMのSHOPをオープンして10年。RHYTHMOSになって5年という節目の年です。

独学自己流で革製品を作り始めたのが1997年、RHYTHM名義で作家活動を始めたのが2002年、その後テーラーでのオーダーメイド専門の職人などを経て、工房を併設した小さなSHOPをオープンしたのが2010年、ブランド名をRHYTHMOSに変えたのが2015年…と、いくつかの区切りがある中でも、やはり一番思い入れのあるスタートは2010年2月のSHOPオープン。
その年、私たちの住む鹿児島の身の回りでは、岡本仁さんの「僕の鹿児島案内」が発売され、GOOD NEIGHBORS JAMBOREEが始まったり、他にも新しいお店や取り組みがスタートしたりと、記憶に残る1年でした。

思えば、10年前の自分には革製品を作ること以外、何も無かったように思います。友人の数も数えるほど、ブランドやお店の存在を知る人は皆無、製作をサポートしてくれるスタッフも居なければ、隣で支えてくれるパートナーもいませんでした。正直、お金も少ししか持っていなかったので、欲しい材料や道具があっても我慢し、思うようにモノが売れるわけでもなく苦悩の日々でもありました。

そんな状況からのスタートでしたが、自分の力で生きて行く感覚は苦しさが吹き飛ぶような楽しいものでもありました。

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そして、当時のモチベーションのひとつに「モノ作りで食べて行くことの見本を作りたい」という思いがありました。
絵描きになる、陶芸家になる、写真家になる、木工作家になる、デザイナーになる、革職人になる、自分の店を持つ…。そんな夢を語ると大人たちは「成功するのはほんの一握り、大変に決まってるからやめときなさい」と言う。そんな人生の先輩のアドバイスに「そんなのはやってない人の決めつけだ!」と立ち向かい、自分を含め、夢を追いかける若者たちに希望を持って欲しい、諦めずに頑張れば成功するんだという目標にならなければ!という、誰に頼まれた訳でもない勝手な義務感を感じていました。
もちろん、自分がやらなくたってお手本になる先輩たちはたくさんいたのだけど、自分もその一人になりたかったんです。

「10年続ければ一人前」という言葉があるか無いか分かりませんが、なんとなくそう思ってきました。過ぎてしまえばあっという間ですが、されど10年。色んな事が変わったり始まったり終わったり。その中で当時と変わらず手仕事だけでやって来れた事はとても幸運な事で、これからもずっと続けて行くための自信にもなりました。何も無かった10年前に比べて持っているものも増えました。お店も移転して広くなりました。ありがたい事に、わざわざ県外から足を運んでくれる方もいらっしゃいます。
これも、お客さまやお取扱店をはじめ、仕入先の業者さん、友人や家族、スタッフのみんな、関わってくださった全ての皆さまのお陰だとしみじみと感じ、改めて深い感謝の気持ちでいっぱいです。

ある意味では通過点でもあり、次の10年へ向けてのスタートでもあります。これからも手仕事にこだわり抜き、暮らしに寄り添う革製品をお届けしていく事で、皆さまの毎日を豊かにするお手伝いが出来るよう、頑張って行こうという強い気持ちとともに、手前味噌ながら、10年前の目標はある程度達成出来たんじゃないかと感じているのも事実です。そして次の10年はどんな目標を持って前に進んで行こうか。この10周年を機に自分たちのものづくりのスタンスや考え方、これからの10年をどうしていくのかなど、色々と見つめ直しております。

よく、原点回帰という表現をしますが、今思うのは初心に還るのではなく、現時点でのゼロ、次の10年に向けた原点を改めて作るという事です。最近では「サスティナブル」や「エシカル」という言葉を耳にすることも増えたと思いますが、考えるのは自然とそういうテーマになってきます。自分の50~60代をイメージし始めた42歳という年齢や、2010年代が終わり、2020年代という新しい時代に突入することもあるかもしれません。その中で、結局は手仕事で生きて行くことを変える訳ではないし、今後も手縫いというスタイルを貫きたいという芯の部分がぶれる事はなく、それを持続可能にしていくためにどうすべきか。

少しざっくり過ぎるし、もの作りや革製品と関係ないように聞こえるかもしれませんが、簡単に言うと自分を大切にする事が全てかなと。健康的な生活をして、ストレスを抱えず、良い意味でマイペースでいる事が何より大切だと。休みなく働く、時間を無視して仕事をしてしまう、徹夜して短期的な生産能力を上げようとする、結果として生活のリズムが悪くなり体調に支障を来たす…と言うような事を辞めようと。

そもそも作る事が大好きで、それを仕事にできて幸せだと思っていますが、仕事であるが故に苦しくなってしまう時もあります。苦しみながら作ったモノは製品としてはOKでも、そこに込められた「想い」という点でクオリティが維持できなくなります。そもそも苦しくなるのは自分で決めた締め切りやノルマのせいであって、自分で自分を苦しめてることに気が付かなかったりするんですよね。そんな風に苦しくなってしまわないよう、自分たちにできるだけ負担を掛けずに、心身共にハッピーな状態で、皆さまの元へRHYTHMOSのアイテムをお届けしたい。当たり前のようですが、10年前には思わなかった事でもあります。

先に挙げた「サスティナブル」や「エシカル」といったテーマについて考えていると、ついつい大目標だけに目がいってしまいがちだと思うのです。でも、まずは自分自身なんじゃ無いかと。自分という存在が持続可能で無理がない、つまりは個人の心身が健康な状態。それを作れないことには世界共通のゴールに近づくことすら出来ないと思うんです。

短絡的な言い方かもしれませんが、一人一人に出来ることってたかが知れていて、一個人が「よし!」と一念発起したところで、一人の力では世界を変える事は不可能。だからと言って何も出来ないと言う訳じゃなく、自分にできる最低限の無理ない努力をすればそれで良い。無理をすると楽しく無くなるから、極端でなく少しずつ小さな事を楽しみながら。そう思った時に、自分自身の健康に気をつかっていれば、自分の住む世界の事にも目が向くようになると思ったんです。コンビニの弁当じゃなく自炊すればゴミも減るし、美味しい野菜を求めれば、無農薬のものを選ぶようになったり家庭菜園を始めるかもしれない。ジョギングをすれば落ちているゴミが気になって清掃活動を始めるかもしれない。朝日を浴びたり公園の草木を見て、自然の大切さを再認識するかもしれない。ちょっとの移動なら車を使わず歩こうと思うようになるかもしれない。そういう小さな変化を起こす可能性があると。

話を本題に戻します。革は命ある動物たちあっての素材。素材のために命を奪うのではなく、食肉という人間の営みによって生じる副産物。それを無駄にしないためにも暮らしの道具に作り変え、それを飯の種にして生きて行く、それが僕の選んだ生き方です。そしてそれが自己満足にならないよう、こうやって意義を考える。何に貢献できているのかを意識する。作ったものは修理して長く使えるよう手仕事にこだわる。商売のために革を仕入れるのではなく、革が存在するから革製品を作る。革が存在するために僕は肉を食べる。畜産を応援する。結果、自分が好きなもの作りを生業にして生きている。シンプルだけど、すごく健全だと思うんです。

「精神的にも肉体的にも社会的にも健康であること」

それを新しい10年へ向けての原点にしたいと思います。
少し、いやかなり長くなってしまいましたが、これからも日々精進してまいりますので、ブランド共々よろしくお願いいたします!

2020年2月
RHYTHMOS&Co.
デザイナー・職人 飯伏正一郎

chapter.7〈Update.〉

ブランドとしての想いや願いはいくつかありますが、その中の一つに10年20年経って世代が代わっても、変わらず愛される「定番」と呼ばれるようなモノでありたいという願いがあります。その為には「作り続ける」ことと同時に、ある意味では「変わり続ける」ことが大事だと思っています。

変わるといっても、それはデザインや形などの外観的なことではなく、どちらかというと構造的な部分の「改良」にあたるところ。それは、例えば素材の質や、細かい縫製の手法だったり微妙なサイジングだったり。

実はリュトモスのほとんどのアイテムは、定期的にアップデートを行っています。代表作のお財布[Zip/ジップ]に関して言うと、リリースした時から現在までに大きく変わったところが5箇所はあって、見た目には分からなくても使い勝手や強度は明らかに向上しています。

このアップデート、ほとんどの場合そのきっかけは修理依頼によるもの。永く愛用頂いているお客様から頂く修理依頼というのは非常にありがたいもので、自分の作ったモノに足りないコトを教えてくれます。縫い目のほつれやファスナーの傷みなど使用による磨耗が原因のものから、お客さまそれぞれの使い方によるもの、そして、そもそもの構造に原因があるもの。その一つ一つを修理していく事で、どこをどういう風に改良すべきかが明確になっていきますし、お客様へお伝えするべき注意点なども、経験値として増えていきます。

そんな訳で、リュトモスのアイテムは常にアップデートされ続け、より良いモノへと成長しています。それを支えるのは、永く愛用して頂いているお客様の声。ちょっと傷んで使う事を控えたり、しまい込んでしまったり、使いながら少しでも気になる部分があったりしたら、是非アトリエにお持ち下さい。少々お時間を頂くかと思いますが、見違えるほど蘇りますし、私どものブランドにとっても有難い勉強になります。

一度送り出した製品たちが、お客様それぞれの生活に寄り添い、深い味わいをまとってアトリエに戻ってくるのもまた、楽しみの一つです。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

chapter.6〈手仕事のこと〉

リュトモスでは一部の布製品を除き、全てのアイテムがミシンを使わない「手縫い」で仕上げられています。

そのままでは硬くて針の通らない革は、目打ちを使って穴を開けてから縫います。蜜蝋を引いた麻の糸の両端に針を付け、両側から交互に針を通す「サドルステッチ」という製法で縫っていくのですが、この製法で縫い上げると革に糸がしっかりと食い込んで、ちょうど両側から波縫いをしたようなカタチになり、とても丈夫な縫い目になります。ミシン縫いの場合には上糸が下糸をすくって縫う仕組みなので、糸が貫通していないためどこか一部がほつれると全てほどけてしまうという欠点がありますが、サドルステッチにはこの欠点がありません。

とはいえ、手縫いは文字通り「一針一針」が手作業なので、ひとつのモノを作り上げるために手間も時間も掛かります。それでも機械で縫うより丈夫で、何よりも革のコンディションがダイレクトに指に伝わるということ、そして大切な素材への感謝のしるしとして、手縫いであることにこだわっています。

もう一つのこだわりは、本当に自分が欲しいと思えるモノを作る事。リュトモスのアイテムは、徹底的に無駄なパーツや装飾を排したシンプルでミニマムなものがほとんどです。それは嗜好品ではなく日常的に愛用されるモノでありたいという考えのもとにデザインしているからで、それは同時にクラフトとしての美しさと機能性へのこだわりでもあります。

丹念に磨き上げられたコバ、フレキシブルな収納性、手に馴染む感じ、質感、重量・・・男性的な力強さと女性的な繊細さを兼ね備えたものを生み出すことがブランドとして、職人としてのプライドです。

ただ、説明されなければ手縫いであることに気付かない人も多く、大量生産されるモノとの差が伝わらない事もよくあります。それでも、手仕事の温もりを大切にしつつシンプルなデザインを心がけ、多くの人に愛され暮らしに寄り添うモノを目指していれば、きっと手仕事であることの良さは知らずとも伝わると信じて、今日も針を動かしています。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

chapter.5〈革と雨〉

今年の梅雨はとても梅雨らしく、6月に入ってからの鹿児島は雨、雨、雨…の毎日です。

雨と言えば、先日ミラノへ旅行した時の事。滞在中は、良い天気に恵まれ夏のような暑さでしたが、1日だけ予報では「夕方から雷雨」という日がありました。あいにく傘を持って行っていなかったので、どこかで調達しなければと気に留めて見ているのですが、TABACCIと呼ばれるコンビニ的なお店にも、お土産物屋にも大きなスーパーにも、どこにも見当たりません。結局、傘を見つける事は出来なかったのですが、ホテルに戻るためにトラムの駅に向かう途中で少し降られただけで、幸いびしょ濡れになることは免れました。

そして、そんな車内からの景色で疑問が解決しました。街中に、観光客にいろんなモノを売っているお兄さんたちが沢山いるのですが、その人達の売り物が、一瞬にして全て雨具に変わっていたのです・・・!よくよく聞いてみると、ヨーロッパの方は雨に濡れることを僕たちのように嫌がらないようで、雨だから濡れるのは当たり前でしょう?と言わんばかりに、傘をささずに歩く人を沢山見かけました。

でも、そんなヨーロッパの方達も、革製品が雨に濡れるのは嫌がるのではないでしょうか?革製品は雨に打たれると、表面にぽつぽつとシミができたり、色移りの原因になってしまいます。「革は濡れてはいけない」と思っている方は多いと思いますが、濡れないようにすることはもちろんですが、濡れた時にどうするか?の方が大事です。以前にメンテナンスについて書いたので重複する部分もありますが、今回は梅雨時期ということもあり、濡れた時の対処に限定してご案内します。

まず、濡れたらすぐにふき取ること。部分的にしか濡れていない場合は、そのままだと境目にシミが残りやすいので、濡らした柔らかいタオル等で、そのシミを馴染ませるように全体的に拭いていきます。この時にタオルの水分で革が濡れてしまってもOK。むしろその方が部分的なシミは目立たなくなります。

そしてしっかりと湿気を取る事が大事です。この時に、ドライヤー等を使って強制的に乾かすのはNG。水分が蒸発する時に革の油分まで持って行くので、逆に乾燥を招いてしまいます。乾燥すると、ヒビ割れの原因になりますし、さらに水分を吸収し易くなるため、次に濡れた時に、シミがつきやすくなります。新聞紙等を詰め、ある程度水分を吸収したら詰め物を取り替え、時間をかけて陰干しします。この時、除湿器の使用はOKです。

完全に湿気が取れたら、次は油分の補給をします。革にとって一番理想的なのは「乾燥し過ぎず適度な油分で潤っている」状態です。革用のクリームやオイルがあれば良いですが、モノによっては扱いが難しいので、手軽なお手入れとして私がおすすめしているのは、馬油(バーユ)やヴァセリンなどの無添加・無香料・無着色のスキンケア用品。ビックリされる方もいらっしゃいますが、革はもともと動物の皮膚だったわけですから、人間の肌に良いモノは同じく革にも良いのです。ただし、無添加というところがポイントです。ハンドクリームをもみ込む要領で、手で直接革製品に塗り込んで行きます。付け過ぎは逆効果なので、少量を薄くしっかりと伸ばすように。まんべんなくもみ込んだら、表面にのこった余分な油を乾いた柔らかい布で拭き取り、1日置いてもう一度カラ拭きします。

防水スプレーを使用する場合は、この時に仕上げとして使って下さい。ただ、皆さんご存知のように、油は水分を弾きます。しっかりと油分で潤っていれば、多少濡れてもすぐに拭き取ればシミにはなりません。あとはこの繰り返し。生き物でもモノでも、きちんと手をかけて可愛がってあげれば、しっかりと育ってくれます。日常的なお手入れが大事ということです。

僕自身も雨に濡れるのは嫌いですが、雨の日に部屋で静かに過ごすのは好きです。ここ最近は、雨音を聞きながら黙々と製作に集中するのが心地よいです。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

chapter.4〈原点〉

僕の母方の祖父は、元・大工。残念ながら僕が二十歳の時に他界してしまいましたが、幼少時代の僕はかなりのおじいちゃん子でした。僕が物心ついた時には既に現役を引退していましたが、家の横にあった小さな作業場でいつも何かを作っていました。大工仕事に限らず、色んなモノを作ったり直したり。

近くのバス停にベンチが無いからと木製の椅子を作ったり、近所の人に頼まれて家電製品や穴のあいた鍋を修理したり、僕らのために庭にブランコを作ってくれたり。当時の家も祖父が自分で建てたものだったそう。

幼い僕は、ほこりっぽい匂いのする作業小屋で祖父の横に座り、昔話を聞きながら眺める作業が大好きでした。その手の動きや道具の一つ一つ、素材がカタチに変わる、元通りに蘇る、その一連の作業は、魔法のように感じました。

ちなみに母も手作りが得意な人で、僕と姉の洋服、お誕生日のケーキ、パンやお菓子、なんでも作って与えてくれました。そんな環境で育ったからか、僕は幼い頃から「つくる」事が好きでした。「つくる」以外にも、モノの「つくり」に興味があって、おもちゃや目覚し時計等を分解しては組み立てる・・・という遊びが好きでした。それは、今も変わりませんが「どうなっているのか?」が気になって仕方なかったんです。

そんな幼少時代を過ごしたおかげで、モノを見れば大体の作りが解るようになり、祖父の作業を見ていたおかげで、道具を見ればその使い方も解るようになった気がします。

そういう訳で、僕の革製品作りは完全なる独学・・・というよりは「自己流」と言った方がしっくりきます。既製品を見て「つくり」を学び、作り方は道具から学ぶというスタイルでここまでやってきました。教科書にあるような「作り方」では無く、トライ&エラーで技術を身につけてきました。お手本にしたブランドや、尊敬している職人・デザイナーは居ますが、どこかできちんと学んだ訳では無いし師匠もいません。デザインの勉強や修行を重ねた作り手の仲間達がいる中で、その事がコンプレックスだった時期もありますが、今は誇りにさえ思っています。

数年前に、母がふと思い出したように言っていました。「じいちゃんも革の鞄を作っていた事がある」と。
偶然にも僕が革製品を作り始めたのは、祖父が亡くなったその年でした。僕のモノ作りの原点は、間違いなく祖父にあります。
祖父がよく口にしていた言葉。”為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり”自分の目標を見失わずに努力すること。その事を教えてくれたのも祖父でした。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

chapter.3〈It is masterpiece of RHYTHMOS〉

[Zip/ジップ]はポーチ型のお財布で、収納力と使いやすさが特徴のリュトモスの代表作です。
 
ぱっと見はシンプルなファスナー付きのポーチなので、見た目ではお財布だと認識されないこともしばしば。手にとって中を見ても、そのサイズ感や独特な構造のため、説明がなければ使い方をイメージ出来ない解りにくい財布でもあります。

自分が使っているものを見せながら説明すると、お札や小銭・カード類はもちろん、通帳やパスポート、スマートフォンや名刺入れ等の厚みのある小物まで収納できること、パーツを極限まで少なくした薄くて軽いシンプルな構造ながら、見た目を裏切る収納力があるということ、その全てが手縫いだということに驚かれ、やっとその魅力を伝えることが出来ます。当たり前ですが実際に使ってもらえれば、上質な素材や丁寧な手仕事、シンプルな構造による使い易さは、瞬時に体感してもらえるはずです。第一印象がどうあれ、それが財布らしい財布であることを、きっと理解してもらえると思います。実際に、ご愛用者の皆さまからは「他の財布を使う気にならない」「友達や家族にも使って欲しい」等、嬉しいお声を頂いています。

そんな[Zip]の原型ができたのは2008年。以前はオーダーメイド製作が中心だったともあり、数多くのお財布を作ってきましたが、何かもう一つ、この形がベストだと思えるものがありませんでした。「お財布というものの型はある程度決まっているけれど、その枠をはみ出た新しいものがきっと出来るはず」そう感じていました。その自分の中の「型」を打ち破ったのが[Zip]だったのですが、思いとは裏腹に当初はまったくといって良いほど反応がありませんでした。それでも自分の中では「これ以上の財布はない」という根拠のない自信があったのと、一部の方に気に入ってもらえたこともあり「この財布をリュトモスの代表作に」と決め地道に作り続けてきました。

結果、2010年9月に出展した業者向け展示会(FOR STOCKISTS EXHIBITION)をきっかけに、老若男女を問わずたくさんの方にご好評を頂くアイテムとなりました。ちなみに、その時(2010年9月)の受注分から入れているシリアルナンバーは、先日「No.1,550」を越えました(2014年12月)。工場生産のモノには及びませんが、生産量の限られた手仕事で送り出す数としては、自分でも想像が追いつかない数で、正直びっくりしています。

Zipは、リュトモスのコンセプトや僕自身の想い、フィロソフィーが全てつまっている、まさに代表作なのです。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

※instagramに「#my_zip」というタグを作っています。皆さんのZipの写真がUPされていますので、是非ご覧なって下さい。
Zipをご愛用頂いている方で、instagramのアカウントをお持ちでしたら、是非「#my_zip」のタグ付きでinstagramにUPして頂けると嬉しいです。

chapter.2〈メンテナンス〉

リュトモスでは、革本来の美しさや自然な風合いを最大限に生かす為、無駄な装飾を削ぎ落としたシンプルなデザインをこころがけています。植物のタンニンを使い丁寧になめされた革は、素材本来の風合いが特徴ですが、使い込む程に優しい艶が増し、深みのある色に育っていく「エイジング」と呼ばれる経年変化もまた魅力の一つです。

よく、お手入れの方法について聞かれますが、私たちはいつも「使う事が最大のお手入れです」と答えています。使う人と共に過ごしシミや傷がついたとしても、それはその人だけの味。使い続ける事で次第に手に馴染み、皮脂や衣類との摩擦により徐々に色と艶が増してシミや傷は目立たなくなります。実際、私が使っている財布もお手入れらしいことはほとんどしていません。

※写真は同じ革の色の新品(右)と約三年使用している私物(左)。

革は、使用条件や気温、湿度によってその質を微妙に変化させます。人の皮膚と同じように、乾燥する時期にはややかさついたり、梅雨時や夏場の湿度の高い時には、表面に油分がにじみやすくなります。いつも使っている人だから気づく、微妙な変化もあります。

「使う事がお手入れ」と言っても、自然の力に頼るばかりではその変化も味ではなく、ただのくたびれになってしまう事があります。特に気を付けて欲しいのは革のひび割れとカビ。

リュトモスの製品は、基本的にお直しをして永く使って頂くことが可能ですが、使わない期間が長かったり、適度な油分を保てずに革の乾燥が進んで、革にひびが入ると元には戻せません。場合によっては縫い直しの修理も出来なくなってしまいます。

乾燥とは逆に、湿気を多く含むとカビの原因になります。生えてしまったカビは、表面的にきれいにする事は出来ても、根が残るため再発しやすくなります。

革製品と上手に付き合うには、シミや傷よりも乾燥と湿気が大敵なのです。決まったお手入れ方法はありませんが、リュトモスの製品とより永く過ごしてもらうために、気をつけて欲しい事はふたつ。

1.油分で潤す
2.湿気を取る

乾燥していると感じたら、表面の汚れを水で固く絞った柔らかい布でふき取り、着古しのTシャツなどをカットした布に革用のオイルを少量つけ、全体に薄くまんべんなく馴染ませます。塗り終わったら、余分なオイルを軽く拭って自然乾燥させます。塗ってすぐはムラになることがありますが、馴染んでくると均一になります。ただし、過度なメンテナンスは逆効果。油分の与え過ぎは、かえって革の風合いやコシを損ないます。

濡れてしまった場合は、乾いた柔らかい布で水分を十分にふき取ります。この時、強くこするとシミが残りやすくなるので、注意しながら優しくしっかりと。その後、風通しの良い場所に陰干しした後、乾燥時と同様に軽く油分を補給して下さい。十分に油分の保たれた状態だと、傷も汚れもつきにくく、水分もはじきます。

長期間使用せずに保管する場合にも同じようにお手入れをした後、布の袋などに入れて風通しの良い場所に保管して下さい。湿気を帯びたまま密封されると、カビが発生しやすくなります。

リュトモスでは革のメンテナンス用品も取り扱っていて、お手入れの相談にも乗っています。工房にお持ちいただければ、サービスで簡単なオイルメンテナンスも施します。良い状態を保ち永く愛用していただくためにも、少しだけ革の状態を気にしてあげて下さい。そうして可愛がってあげることで、革本来の魅力を増し、深みのある自分だけの味わいになっていきます。

出来上がったばかりの新品には無い、使う人と毎日一緒に過ごすことで生まれる「味わい」が重なることで、どんどん素敵に育っていく。そんな唯一無二のあなただけのアイテムになれたら、私たちはとても幸せです。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

chapter.1〈革は命〉

chapter.1「革は命」
私たちの暮らしは、日頃から様々な種類の素材に囲まれています。当たり前のように存在するその一つ一つが、どこからやって来て、どんな風に作られているのか。皆さんはそんな風に考えた事はあるでしょうか?

例えば、コットンの布は綿から作られています。綿は植物であり、そこには綿花を育む自然と、手間ひまかけて育てている農家の存在がある。そういうことを知識として知ってはいても、普段の生活の中ではあまり意識しないものです。

革は元をたどれば命ある動物たち。リュトモスで使用するのは牛革がほとんどで、原則的に革のために処分されることはなく、食肉産業の副産物として生まれます。牛から剥いだ原皮は塩漬けにされ、加工業者であるタンナー*1さんの手に渡ります。

鞣し(なめし)という言葉を聞いた事があると思いますが、そのままでは腐ってしまう動物の皮膚を、腐らない丈夫で安定した素材へと変換すること、つまり「皮」から「革」へ加工するのが鞣しです。この鞣しには大きくわけて2つの方法があり、簡単にいうと伝統的な方法と近代的な方法。リュトモスが使うのは前者の伝統的製法*2によるものです。昔ながらの手法で、100%天然成分を使用して作られる、手間も時間もかかる非効率な素材ですが「使えば使うほど味が出る*3」という魅力は、実はこの製法による特徴です。

自然な風合いを生かして仕上げられるため、天然の傷や、トラ*4・イナズマ*5とよばれる生きていたときの痕跡があったり、個体差が出やすい素材です。同じ1枚の革でも、裁断するのが背中なのかお尻なのか、部位によって表情が違い一定ではありません。プラスチックのような工業製品ではなく、一人として同じ人間が存在しないのと同じように、牛や馬も一頭ずつ違って当たり前。転んでケガをすることもあります。育つ環境によっては皮膚にシミもできますし、虫にも刺されます。傷やシワ、シミなどがあるのは当然で、染料の入り方も違うので色ムラも出ます。

そういう理由から、均一な仕上がりを求める量産メーカーやハイブランドでは扱いにくく、使用する場合でも傷などを避け、きれいな部分だけを使うため原価率が上がります。ブランド品が高級な理由は、実はこんなところにもあるのです。

リュトモスのコンセプトは「命」。動物たちから頂いた大切な命に感謝を込め、丁寧な手仕事で素材を余すところ無く使う。強度などに問題が無い以上、傷やシミのある部位も使用するため財布の真ん中に大きな傷がある場合もあります。パーツによって色味に差が出る場合もあります。それは私たちのモノ作りにとっては、ごく自然な当たり前のことです。

リュトモスのアイテムを手にした時、その傷やシワから、生きて走りまわっていた頃に思いを馳せてみて下さい。そうする事で今まで以上に愛おしく、世界にたった一つのモノであるという事が伝わるはずです。

私たちの作るアイテムを通じて、命の大切さや、素材の先にある人や自然の存在を意識してもらう事ができたら、とても嬉しく思います。

デザイナー・職人 飯伏正一郎

*1 革を鞣すことをタンニングと言い、それを行なう業者のことをタンナーと呼びます。
*2植物タンニンなめし・フルベジタブルタンニング・渋なめしなどの呼び名がありますが、ミモザやアカシアの樹皮から抽出されるタンニン(渋)を使い、30~40日間かけて丁寧に鞣します。この製法による革のことを一般的にヌメ革と呼びます。
これに対する近代的製法とはクロム鞣しと呼ばれる化学薬品を使用する方法で、鮮やかな発色やミシン縫製に向く柔らかさと、生産効率の良さが特徴です。
*3 ヌメ革は、使用していくと皮脂が擦り込まれ、衣類などの摩擦や日に当たったりすることで、あめ色の艶が出て来ます。この経年変化をエイジングと呼びます。
*4生きていた時のシワなどが残っているもの。縞模様になるところからトラと呼ばれます。
*5 血管・血筋の痕。革の表面にイナズマ状に走っていることからそう呼ばれます。

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